日常的な分析業務におけるJIS並びにISO規格の利用

- 表面分析実用化セミナー '12 -

質疑応答集

 本年度の表面分析実用化セミナーの質疑応答においても,表面分析の実務担当者の間で大変有意義な議論が交わされたことから,昨年同様,質疑応答で交わされた議論をQ&A形式で公開することにいたしました. 表面分析実務担当者の皆様のお役に立てれば幸いです.


質問一覧
2012/7/12 大阪地区
SIMS-S-SIMSにおける相対強度軸目盛の繰り返し性と整合性(ISO 23830)
「1. 参照試料の入手」に参照試料として用いるPTFEテープに関して「後に行うチェックのために,表示を行い,保存する」と記述があるが,「表示」とは何を表示するように規定されているのか?
「繰り返し性」と「恒常性」は規格でよく使われる言葉であるが,どういう風に使い分けられているのか?
「繰り返し性」と「恒常性」を評価する時で異なるピークを使うのは何故か?
管理図における許容限界について,電子分光で「acceptance limit」という単語が用いられるが,SIMS(ISO23830)では「percentage limit」が用いられているようである.何か意味があるのか?
警戒限界を超えたときは何を調整するのか?
ToF-SIMS分析の試料のセッティングでセッティングが難しい試料はどうすればよいか?
ビーム径を毎回同じにして測定するように規定されているが,毎回ビーム径を一致させることは容易にできるか?
強度軸の校正に関する本規格内で,参照試料測定時の質量校正について述べられているが,この次の紹介にあるように質量軸校正の規格も存在する.これらの使い分けはどのようにすればよいのか?
本規格で用いることになっている参照試料(PTFEテープ)は長期間の保存に対して安定か?
繰り返し性について評価値として分散を求めるが,その値に制限はないのか?

SIMS-ToF-SIMSにおける質量軸校正(ISO 13084)
試料作製でアルミホイル上に試料を準備すると規定されているが,薬包紙などを用いてよいか?
濃度1 mg/ml のTHF中PC溶液を100 ml準備して0.2 ml程度ずつしか使用しないが,試料(溶液)の長期保管は可能か?またその場合,どのようにすればよいか?
試料作製の際の滴下量は多すぎることはないか?
強度軸の校正の講演でも質問が出たが,強度軸の校正と質量軸の校正の関係はどのように考えればよいか?
実際の業務で質量確度の評価はどうすればよいか?毎回評価が必要か?
スペクトルの測定条件として,最大質量が少なくとも800 u以上と規定されているが,質量軸校正に関する部分の記述では,同定するピークの質量の55%までとも記載されている.例えば同定したいピークが500 uぐらいだった場合は,どちらを優先すればよいか?
この規格を実際に使うとするとどのようにすればよいか?
質量確度のばらつきのところで例として示されている結果を見ると,炭素鎖の長さが同じ場合,Hの数が増えると質量確度が右上がりになっているが,何か傾向があると考えてよいのか?
質量確度を評価する試料として,PC溶液を作製するのではなく,市販の成形済みのPCは使えないか?

スパッタ深さ方向分析-スパッタ深さ測定法(TS K 0012,ISO/TR 15969)
 スパッタ深さ方向分析-スパッタ速度の測定法:メッシューレプリカ法(ISO/TR 22335)
メッシュレプリカ法でスパッタした後の凹凸の測定結果からどのようにスパッタ深さを求めればよいかの手順は具体的に示されているか?
エッチングの際にザラー回転の有無でエッチングレートの違いは生じるか?また,ザラー回転を用いる場合にメッシュレプリカ法は使えるか?
回転すると削れなくなる時があるが,何が問題か?
メッシュレプリカ法はイオンの斜め入射に使えるか?
エッチングレートを求めたりする場合,界面位置の決め方が問題となると思われる.例えばSiO2試料でも,深さプロファイルを得るのにどのピークを用いるかで50%強度の位置が変わるがどのようにすればよいか?
界面位置を決める手順を規定する規格については,現在作成が進められているということであるが,どのような状況か?また,例えば単純なSiO2/Siなどであればよいが,多層膜ではどのようにすればよいか?

XPS-装置性能を示す主要な項目の記載方法(JIS K 0162,ISO 15470)
 AES-装置性能を示す主要な項目の記載方法(JIS K 0161,ISO 15471)
「装置の応答関数の時間に依存した変化が無視できる条件を記載」と記述されているが,応答関数は必ず時間変化するものだと思う.依存しない,と言ってしまうと定量測定等に影響はないか?
角度分解XPSにおける検出角の定義が分かりにくくないか?
ユーザーのために装置性能を示す規格とあるが,ユーザーにとってもメーカーにとっても難しい規格と思う.どうあればユーザーにとって役立つか?
規格として規定されているが,実際のカタログなどに記載されているのか?

AES-帯電制御と帯電補正に用いた手法の報告方法(ISO 29081)
オスミウムコートに関して,試料にもともと付いていたコンタミか,オスミウムコート中やコート後に付着したコンタミであるか,どのように判断すればよいか?
ガス暴露を行うことで帯電を防ぐことがあるとのことだが,導入するガスは何か?
FIBデポを使って電気が流れるラインを作る方法が報告されているが有効性はどうか?
不均一帯電の問題はないか?
いろいろな手法が紹介されているが,まず試してみるのはどの方法がよいか?
試料傾斜による帯電制御が一番有効と考えればよいか?

XPS-帯電制御と帯電補正に用いた手法の報告方法(ISO 19318)
以前C 1sを使ったエネルギー値の補正に関して議論されたとの話があったが,どの値にするのが一番よいという結論になったのか?
分析依頼者から帯電補正等について報告を求められることはあるか?
帯電制御や帯電補正は分析会社のノウハウが多く,公開されないというイメージを持っている.ISO規格としてはどのように規定されているのか?
C 1sでエネルギー値を補正するとき,試料がポリマーなど炭素を含む場合は使えるのか?
スパッタ清浄化した後の表面に対しては,エネルギー基準をどう考えるか?

全体討議
今回紹介した規格は日常業務で使える規格と考えられるか?また,セミナーを聞いてどのような感想や意見を持たれたか?


2012/7/31 東京地区
各手法共通-分析試料の前処理と取り付けに関するガイドライン(ISO 18116)
 各手法共通-分析前の試料の取り扱い(ISO 18117)
試料を保管する際,薬包紙やアルミホイルで包むなど,いろいろな方法を使っているが,どのように保管するのが一番よいか?
斜め研磨した試料の研磨面を試料ホルダー表面に対して精度よく平行に固定するための方法はあるか?
アルミ箔などで包んで試料が持ち込まれる場合が多いが,この包んだ試料を入れるケースそのものによる汚染の影響は考える必要はないか?
金属酸化物などの選択スパッタが起きる系に対してスパッタ深さ分析による深さ方向定量分析を行う場合,スパッタリング収率の比の文献値を使って感度係数を補正するとよい定量値が得られると説明があったが,実際の系で,どの程度正しい値が得られると考えればよいか?
選択スパッタはイオン種などで変わるのか?
試料表面とバルクで組成が異なる試料のスパッタ深さ分析を行う場合,選択スパッタの影響はどのように補正すればよいか?
ISO18116ではいろいろな項目が記載されているが,分析を行う際に各事項を記録するように規定されているのか?
ISO18117のガイドラインは分析依頼者のためのものとのことであるが,どのように使えばよいか?事前の打ち合わせ等で教えたり,確認してもらったりするのか?

XPS-分析のガイドライン(ISO 10810)
強度の再現性と恒常性についてCu 2p3/2とCu 3pのピーク強度比で評価しているが,強度ではなく比を用いることにどういう意味があるのか?
繰り返し性と恒常性を調べるときに用いるCu試料に対して1%硝酸での洗浄が必要と明記されているが,硝酸による洗浄は必要か?
制動X線を使うとはどういう意味か?
強度軸の繰り返し性と恒常性を評価する場合,測定ごとに試料位置の調整が必要であるが,ステージコントローラがある時はどのようにするのがよいか?
本ISO規格に関連する新規ISO並びにJIS規格に関する情報について

AES & XPS-空間分解能の決定(ISO 18516)
 AES & XPS-空間分解能,分析領域及び分析器から見える試料表面領域の決定(ISO/TR 19319)
分光器の応答関数とは何か?
gold-island法を用いて空間分解能を測定する場合は,粒子の形状が重要であると考えられるが,この規格においてgold-islandの形状に対して求められる条件などは規定されていないのか?
Au微粒子を用いてAES装置の空間分解能を測定する場合にAu微粒子試料の清浄化が必要とのことであるが,規定されている程度まで試料全体にわたって清浄化できるか?
Au微粒子を使った空間分解能測定の例として示されているプロファイルでは0%と100%の領域にプラトーが見られないが,この規格では0%と100%の決め方は規定されていないのか?
Au微粒子を用いて空間分解能を測定する場合,予想空間分解能の10倍以上の粒径が必要とのことであるが,最後に示されている例では粒子の大きさが予想空間分解能の10倍よりもずっと小さいと思われるが,規格内で特に説明等は行われていないのか?
ここではグラファイト上Au微粒子などが空間分解能を測定するための試料として用いられている.しかしながらSEMなどの空間分解能を測定する場合,例えば近接するAu微粒子の隙間の長さを測定し,その最小値を求める方法(ダークスペース分解能)を用いる方が一般的で,AES装置のSEM空間分解能の仕様にも採用されている.この点についてはどのように考えればよいか?
分析器の応答関数が単純なガウシアン型の場合を考えると,空間分解能の値は分析領域の半分程度の値になり,実際に分析する領域は空間分解能で与えられる領域より広い.これら分析領域と空間分解能の関係はどのように考えればよいか?

スパッタ深さ方向分析-層構造系標準物質を用いた最適化法(JIS K 0146,ISO 14606)
深さ分解能の一般的な定義に関して,強度が0%から100%へ変わるところと100%から0%へ変わるところで分解能が異なると考えられるが,両者で空間分解能が異なるとして分析結果を取り扱えばよいか?例えばSi基板上のSiO2膜の場合,膜の酸素ピークを用いるのと基板のSiピークを用いる場合で分解能が変わると思われる.
埋め込み膜の場合などは,埋め込み膜によるプロファイルの立ち上がり側と立ち下がり側で深さ分解能が変わる場合が多いが,そういう場合はどのように取り扱えばよいか?
スパッタ領域に比べて分析領域をできるだけ狭く設定する方が,深さ分解能が高くなるとのことであるが,スパッタ領域と分析領域の面積の最適な割合は決まっているか?
スパッタクレータの中心付近の平坦な領域を分析する方が深さ分解能が高いとの説明があったが,平坦な領域と分析領域の面積の兼ね合いがあると考えるが,どのように考えればよいか?
イオンの入射角を大きくすれば(すれすれ入射に近づければ)深さ分解能は必ず向上するのか?
深さ分解能を求める時に強度の16%と84%という値が出てくるが,この値にはどのような意味があるのか?
このJIS(ISO)は規格ではなく技術報告であるため,厳密な手順を規定しているのではない.日常的な分析を行う場合,条件を変えながら深さ分解能を測定して深さ分解能が最適となる条件を見つけるのは現実的ではないため,日常的に用いる範囲で探す,ということであるが,日常の分析では分解能の評価や装置のメンテナンスに関してどのようにルーチン化するのが実用的か?
D-SIMSにこの規格を適用する場合について
SIMSにおける深さ分解能について

中エネルギー分解能AES-元素分析のためのエネルギー軸目盛の校正(ISO 17973)
 高エネルギー分解能AES-元素と化学状態分析のためのエネルギー軸目盛の校正(ISO 17974)
 XPS-エネルギー軸目盛の校正(JIS K 0145,ISO15472)
エネルギー軸を校正する場合,必要な元素の必要なピークのみ測定すればよいのか?あるいは,例えば0~2000 eVと広く測定してもよいのか?
試料としてAu, Ag, Cuを用いることとあるが,試料は変えてもよいか?

AES & XPS-均質物質定量分析のための実験的に求められた相対感度係数の使用指針(ISO18118,JIS K 0167)
平均マトリクス相対感度係数(AMRSF)の説明のところで,計算に必要なデータが入っているソフトウェアCOMPROが紹介されているが,その中でAMRSFを計算できるのか?
定量値の不確かさにかかわる因子として試料形状が挙げられているが,粒子などの球状の試料に適用できる相対感度係数の式があったら紹介してほしい.
Au-Cu合金の例において,実際の合金の組成が示されているが,どのような方法で得た値か?
今回の相対感度係数を用いたAESによるAu-Cu合金の定量では,AESによる定量値がEPMAで得られた値と異なっている理由について,試料内部まで見えるEPMAで得られたバルクの組成値と,試料表面のみを定量するAESで得られた定量値が違っていても特に問題ないと思うが,そういう理解でよいか?
AESで分析する場合に表面偏析が起きるのであれば,TEM試料のように薄くして比較してはどうか?
定量を行う際,感度係数はメーカーが提供する解析ソフトに入っているが,定量に使うピーク(遷移)を変えることがある.AESでpeak-to-peakで定量を行う場合はあまり問題ないが,XPSの場合はバックグラウンドをどのように引けばよいのか,など疑問に感じる時がある.どのように解析すればよいか?
例えばSiO2/Si系のAES分析では,SiO2とSiの感度係数が大きく違う.どのようにすればよいのか?
XPSの場合に,主に定量に使うピークが他の元素の重なりがある場合,どのように定量すればよいか?また,低結合エネルギー側にあるピークのバックグラウンドのために強度が階段状に高くなっている場合もあるが,どのようにすればよいか?

全体討議
スパッタ収率のデータベースは存在するか?
表面分析装置の今後の方向性について
ソフトウェアの開発という意味で,測定条件などの指針を自動で与えてくれるエキスパートシステムの今後はどうか?
XPSのピーク位置の補正の正しさの議論は今後どうなるか?


Q and A
2012/7/12 大阪地区

SIMS-S-SIMSにおける相対強度軸目盛の繰り返し性と整合性(ISO 23830)
Q:「1. 参照試料の入手」に参照試料として用いるPTFEテープに関して「後に行うチェックのために,表示を行い,保存する」と記述があるが,「表示」とは何を表示するように規定されているのか?
A:明記はされていないが,購入日など,試料の履歴のことだと思われる.
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Q:「繰り返し性」と「恒常性」は規格でよく使われる言葉であるが,どういう風に使い分けられているのか?
A:共に,例えば強度を測定した場合に同じ条件であれば同じ強度が得られることを評価するものである.「繰り返し性」とは連続した測定で同程度の値が得られるかどうかの評価のことであり,「恒常性」とは例えば3ヶ月という長周期で調べた場合に同程度の値が得られているかどうかの評価のことである.
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Q:「繰り返し性」と「恒常性」を評価する時で異なるピークを使うのは何故か?
A:恒常性ではスペクトル全体を評価するためスペクトルパターンが重視され,繰り返し性の時とピークが異なると考えられる.そのため恒常性の評価ではピーク強度比で評価されると思われる.
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Q:管理図における許容限界について,電子分光で「acceptance limit」という単語が用いられるが,SIMS(ISO23830)では「percentage limit」が用いられているようである.何か意味があるのか?
A:あまり気にしたことがなく,どのような意味があるか正確には知らない.英単語のニュアンスからは,「percentage limit」は単に「ある値に対してパーセントで示された限界」,「acceptance limit」は「受け入れられる限界」と思われる.どちらも同様の限界値を与えるものであるが,ニュアンスとしては「acceptance limit」の方が日本語の「許容限界」に近いと思われる.
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Q:警戒限界を超えたときは何を調整するのか?
A:いろいろな装置起因の原因があり,その都度検討が必要である.電子分光の例で言うと,管理限界を超えたら元に戻って装置の調整から始めるのだと考えられる.
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Q:ToF-SIMS分析の試料のセッティングでセッティングが難しい試料はどうすればよいか?
A:場合にもよるが,セッティングが難しい試料を固定する際に,メッシュで抑える方法を使うことがよくある.
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Q:ビーム径を毎回同じにして測定するように規定されているが,毎回ビーム径を一致させることは容易にできるか?
A:普段の条件で調整すれば十分満たされる条件が規定されている.
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Q:強度軸の校正に関する本規格内で,参照試料測定時の質量校正について述べられているが,この次の紹介にあるように質量軸校正の規格も存在する.これらの使い分けはどのようにすればよいのか?
A:まずToF-SIMSでは,スペクトル測定ごとに質量軸の校正が必要であることが重要である.ToF-SIMS装置の強度軸の恒常性を評価する場合は,この規格内で述べられている校正に従えばよいだろう,実際の分析では,次に紹介される質量軸校正の規格を使って広い質量範囲(規格では最大質量の55%までを校正することになっている)に対して校正するべきである.
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Q:本規格で用いることになっている参照試料(PTFEテープ)は長期間の保存に対して安定か?
A:数年は使えると思う.もちろん参照試料の保存環境に依存するが,リール型の巻かれたものを使用し,使用するたびに先頭から20 cmを廃棄してから試料として用い分を切り取るため,中の方は大丈夫だと考えられる.
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Q:繰り返し性について評価値として分散を求めるが,その値に制限はないのか?
A:繰り返し性の評価は装置の特性を知るために行うため,得られる分散値に対して制限はない.恒常性の限界は使用者が値を決める.
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SIMS-ToF-SIMSにおける質量軸校正(ISO 13084)
Q:試料作製でアルミホイル上に試料を準備すると規定されているが,薬包紙などを用いてよいか?
A:規格にはアルミホイル以外は記載されていないが,試料を汚染しないことが重要であり,薬包紙でもよいのではないかと考えられる.
[註釈] アルミホイルに関しては,規格では「巻かれていたアルミホイルから新たに開いた光沢面側を用いる」と記述されている.しかし,光沢面側は光沢無し面よりも汚れているというのが定説であり,アルミホイルを用いる場合は光沢無し面を用いた方が良いと考えられる.
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Q:濃度1 mg/ml のTHF中PC溶液を100 ml準備して0.2 ml程度ずつしか使用しないが,試料(溶液)の長期保管は可能か?またその場合,どのようにすればよいか?
A:吸湿性などがあるので規格内では1ヶ月までと規定されている.その間(作製後1ヶ月間)は,質量軸校正に使ってよいことになる.
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Q:試料作製の際の滴下量は多すぎることはないか?
A:スピンコーターを使用できない場合には,自然乾燥させてもよいと記述があるが,滴下液がドロプレットになるか,きれいに伸びるか,実際にこの方法を試したことがないため,正確には分からない.規格内でも「平坦ではないPC薄膜になり,ピーク強度が変動する可能性があるので,スペクトルの比較には注意が必要」と記載されており,きれいに伸びない可能性がある.
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Q:強度軸の校正の講演でも質問が出たが,強度軸の校正と質量軸の校正の関係はどのように考えればよいか?
A:まず強度軸を校正してから,この規格に従って質量軸を校正する.質量軸校正ではスペクトル強度とピーク形状も重要になるので,この順番の方が適切と考える.
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Q:実際の業務で質量確度の評価はどうすればよいか?毎回評価が必要か?
A:通常のメンテナンスで質量確度はクリアできているとして使用しているのが現状と考えられるが,質量確度が悪い状態で使用している可能性も否定できない.規格では,使用装置の質量確度のばらつきが最小になるように設定するだけであり,その最小値の範囲や推奨値等はまだ規定されていないため,評価は難しいと思われる.ただし,装置の状態を把握しておく観点からは,意味があると思われる.
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Q:スペクトルの測定条件として,最大質量が少なくとも800 u以上と規定されているが,質量軸校正に関する部分の記述では,同定するピークの質量の55%までとも記載されている.例えば同定したいピークが500 uぐらいだった場合は,どちらを優先すればよいか?
A:同定したいピークが500 u だった場合は800 u以上という条件が優先される.800 u以上という記述は,装置の特性を調べる前半の手順内4.3.3で,既知のPC試料の測定条件の1つとして示されている。ただし,4.3.3の冒頭で通常の測定条件と測定時間を選択するようにと示されていること,実際の試料の質量軸校正に関する後半の手順4.6には測定条件の記述がないことから,前半の手順内に示されている測定条件に関する内容を,後半の手順4.6の実際の試料の測定においても適用されるのが自然である.
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Q:この規格を実際に使うとするとどのようにすればよいか?
A:前半の手順4.1~4.5は既知の試料で装置の特性を調べる手順になっているが,通常はこの部分は行われていないと思われる.一般には手順4.6の実際の試料に対して得られたスペクトルの質量軸校正から行われている.前半の装置特性の部分は,装置パラメータとして調べておく意味があると思われる.
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Q:質量確度のばらつきのところで例として示されている結果を見ると,炭素鎖の長さが同じ場合,Hの数が増えると質量確度が右上がりになっているが,何か傾向があると考えてよいのか?
A1:傾向はあると考えられる.質量軸校正手順が改善され,その傾きが小さくなった場合,質量確度が向上したことを意味する.同様の傾向があることが,先日開催された第39回表面分析研究会でTOF-SIMSワーキンググループから報告されたことから,いろいろな試料等で同じような傾向があると考えられる.
A2:幾つかの質量校正ピークの組み合わせに対して,傾きを調べることで,質量確度が向上に繋がる可能性がある(例えば,同じ炭素鎖の長さのグループの真ん中付近のピークを質量校正に使うなど).ただし,現状では,試料ごと,ピークごとに飛行時間の校正の係数A,Bが異なることから,測定ごとに質量確度のばらつきを調べた方が,質量確度は向上する.
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Q:質量確度を評価する試料として,PC溶液を作製するのではなく,市販の成形済みのPCは使えないか?
A:測定時のチャージアップが一番の問題と考える.導通を確保できるため,また,形成済みのPCでは添加剤の影響もあり得るため,規格にある手順に従って作製した試料の方がよいと考える.
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スパッタ深さ方向分析-スパッタ深さ測定法(TS K 0012,ISO/TR 15969)
 スパッタ深さ方向分析-スパッタ速度の測定法:メッシューレプリカ法(ISO/TR 22335)
Q:メッシュレプリカ法でスパッタした後の凹凸の測定結果からどのようにスパッタ深さを求めればよいかの手順は具体的に示されているか?
A:特に示されていない.本規格がISOではなくTR(技術報告)のためと思われる.
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Q:エッチングの際にザラー回転の有無でエッチングレートの違いは生じるか?また,ザラー回転を用いる場合にメッシュレプリカ法は使えるか?
A:基本的には変わらないはずであるが,経験的には,回転軸をうまく合わせることが難しいために,ザラー回転を用いるとエッチングレートは一般的に低くなる.また,回転軸が合っていないと測定位置のズレも生じ,メッシュ開口部を正確にねらって測定することも難しいと思われる.
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Q:回転すると削れなくなる時があるが,何が問題か?
A:試料の平坦性に問題があるか,回転軸やイオン照射位置のずれなどがあると思われる.
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Q:メッシュレプリカ法はイオンの斜め入射に使えるか?
A:メッシュに高さがあるため,あまりすれすれの場合は使えない.垂直に近くなるほどクレータ深さの測定という点では使いやすくなるが,表面荒れが起きやすくなる傾向があるので,注意が必要である.開口の広いメッシュもあるので,条件に合わせてメッシュサイズを選択するのもよい.
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Q:エッチングレートを求めたりする場合,界面位置の決め方が問題となると思われる.例えばSiO2試料でも,深さプロファイルを得るのにどのピークを用いるかで50%強度の位置が変わるがどのようにすればよいか?
A:現時点では,求め方は規定されていない.自分でやり方を決め,例えば平坦なところや最大となるところを基準(100%)として50%強度の位置を界面としたなどと予め定義した上で報告・検討することが多い.
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Q:界面位置を決める手順を規定する規格については,現在作成が進められているということであるが,どのような状況か?また,例えば単純なSiO2/Siなどであればよいが,多層膜ではどのようにすればよいか?
A:現在国際的にアンケートを実施して,実際の分析でどのような規定が必要かについて調査し,規格作成に向けた情報の収集を行っている段階である.全てのケースに適応できる規格とすることは難しいとは考えているが,単純は系だけでなく多層膜なども視野に入れ,できるだけ現実の系に適応できる規格を作れるように議論を進めているところである.
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XPS-装置性能を示す主要な項目の記載方法(JIS K 0162,ISO 15470)
 AES-装置性能を示す主要な項目の記載方法(JIS K 0161,ISO 15471)
Q:「装置の応答関数の時間に依存した変化が無視できる条件を記載」と記述されているが,応答関数は必ず時間変化するものだと思う.依存しない,と言ってしまうと定量測定等に影響はないか?
A:メーカーによって補正方法等は異なるが,応答関数が変化しないことはあり得ない.装置の応答関数が変化したのか試料の組成が変化したのかを判断するには,定期的に強度軸の恒常性等を規格(ISO21270,24236,24237)に従って調べておいた方がよい.
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Q:角度分解XPSにおける検出角の定義が分かりにくくないか?
A1:指摘の通り非常に分かりにくい.
A2:ISOでは,角度は試料表面垂直方向から測った値として規定されているが,特にXPSの検出角度については,試料表面から測った角度も多用されているのが現状で,注意する必要がある.
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Q:ユーザーのために装置性能を示す規格とあるが,ユーザーにとってもメーカーにとっても難しい規格と思う.どうあればユーザーにとって役立つか?
A:メーカーも勉強しないといけないことが多い.また,メーカーが気づかないことなども意見をいただいてフィードバックできればと思う.
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Q:規格として規定されているが,実際のカタログなどに記載されているのか?
A1:絶対的なルールではないので掲載されていない場合も多いが,記載されているほうが丁寧という印象がある.カタログでは,本規格で規定されている共通スペックよりも,各メーカーの特徴などの方がよく記載されていると思われる.
A2:非常に細かい部分まで規定されているが,日常の分析で得られる分析値の正確さなどを検討する上では,ユーザーとしても知っておいた方がよいものも含まれている.
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AES-帯電制御と帯電補正に用いた手法の報告方法(ISO 29081)
Q:オスミウムコートに関して,試料にもともと付いていたコンタミか,オスミウムコート中やコート後に付着したコンタミであるか,どのように判断すればよいか?
A:オスミウムコートした後,スパッタしてオスミウムを少しずつ削りながら測定することが多い.多くの場合,炭素,酸素による汚染が少なく帯電も少ないオスミウムコート量の条件が見つかる.スパッタし過ぎてしまう場合もあり,そういう場合はもう一度オスミウムを蒸着して最適条件を探す.
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Q:ガス暴露を行うことで帯電を防ぐことがあるとのことだが,導入するガスは何か?
A1:酸素が多い.ただし試料は金属酸化物の場合である.帯電だけでなく損傷も防げる.導入するガスの圧力は10-4 Pa程度と比較的高い.
A2:SEMでは試料汚染等を気にしない場合が多いので,ガスを導入して観察することが結構ある.
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Q:FIBデポを使って電気が流れるラインを作る方法が報告されているが有効性はどうか?
A:FIBでデポした付近では帯電を防げることが多い.局所領域を分析できるAESでは有効である.分析領域が広いXPSでは難しいと予想される.
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Q:不均一帯電の問題はないか?
A:AESでは微小領域を選べるのでXPSなどに比べると比較的避けることができる.ただし測定中にピークシフトが起きる場合も多く,シフト量が少ない状況を見つけて測定することも多い.その場合,必ずしも試料全体の情報でない可能性があることを認識しておくべきである.
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Q:いろいろな手法が紹介されているが,まず試してみるのはどの方法がよいか?
A:基板上の薄膜でない場合は,傾斜して加速を下げてデフォーカスを一度にやることが多い.
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Q:試料傾斜による帯電制御が一番有効と考えればよいか?
A:試料によっては二次電子収率が大きく変化することもあり,必ずしも一番有効とは言えない.また,傾斜するとビームが広がるため,分析箇所を狙って測定する場合は傾斜すること自体が問題となることもあるので注意が必要である.
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XPS-帯電制御と帯電補正に用いた手法の報告方法(ISO 19318)
Q:以前C 1sを使ったエネルギー値の補正に関して議論されたとの話があったが,どの値にするのが一番よいという結論になったのか?
A1:実際に使われている値としては284.6 eVが一番多かった.一般的な値は284.6~285 eVである.歴史的には,エネルギー軸の基準となるフェルミエッジを決めるための物質が変更されたことが何度かあり,その度にC 1sのエネルギー値も変わってきた.その結果,日常的にユーザーが参照するハンドブックに掲載されているエネルギー値にもばらつきがあり,ユーザーが用いるハンドブックやメーカーのマニュアルに依存して,用いられるC 1sの値が変わる傾向がある.どの値が最も良いか,という質問に対しては的確な回答がないのが現状である.
A2:C 1sを基準にエネルギー軸を補正する場合の注意点として,炭素汚染の付着量に依存してピークエネルギーがシフトし,ある程度付着するとシフトが飽和するので,ある程度炭素汚染がついていないといけないことが挙げられる.
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Q:分析依頼者から帯電補正等について報告を求められることはあるか?
A:実際には中和法等に興味を持たれることは少なく,得られた結果のみ求められることが多い.ピーク位置の違いなどを報告する時に,分析結果を報告する立場としては必要だと考える.また,測定記録としても重要である.分析の経験を持っている依頼者からは帯電補正等に関する情報を求められることが比較的多い.
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Q:帯電制御や帯電補正は分析会社のノウハウが多く,公開されないというイメージを持っている.ISO規格としてはどのように規定されているのか?
A:義務ではない.分析結果の信頼性や妥当性を保証するという観点では,帯電制御や帯電補正に関しても報告する方がよいと考える.
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Q:C 1sでエネルギー値を補正するとき,試料がポリマーなど炭素を含む場合は使えるのか?
A1:ポリマーの種類によるが,炭素汚染はC-HやC-C結合由来のため,これら以外の特徴的なCに起因する結合があればそれを基準とすることができる.
A2:フラーレンにフッ素をつけた試料でC-Fしかない試料の分析をした場合は,大気中に試料を保存することで炭素汚染をつけて,この汚染によるC 1sピーク位置を基準にしたことがある.ただし汚染量の増加に伴ってピーク位置がいくらかシフトするため,汚染量に注意する必要がある.
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Q:スパッタ清浄化した後の表面に対しては,エネルギー基準をどう考えるか?
A:炭素汚染がなくなるためC 1sでの補正は難しいが,例えば導電性試料の場合などは,金属ピークを使うこともできる.導電性試料でない場合は,オージェパラメータを使う方法などもある.
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全体討議
Q:今回紹介した規格は日常業務で使える規格と考えられるか?また,セミナーを聞いてどのような感想や意見を持たれたか?
A1:参考になる.非常に細かいところまで規定されているものもあり,全てを求められると厳しい面もある.
A2:普段自身が行っている方法が正しいかどうか判断する上で参考になる.
A3:これまで使ったことがない方法の紹介もあったため,試してみたいと思う.役立つ情報も多く含まれている.
A4:ToF-SIMSを使っているため,縦軸,横軸の校正は参考になった.粉末試料を扱うことが多く,質量校正に対する試料の凹凸の影響などを知りたいと考えている.
A5:最近は導電性の微粒子などで形状効果を調べた結果が報告され始めている.
A6:職場でISOやJISに従った分析を行うことになったため,大変参考になった.
A7:分析を依頼したときに会社によって報告結果が異なることなどもあり,国際規格の重要性を最近感じている.
A8:自分達が社内標準的に用いてきた手法が含まれていたので,自分たちの手法が正しかったことが分かった.また,これまで知らなかった方法も紹介され,参考になった.
A9:独自の手法が妥当かどうかを判断する参考になった.
A10:同じ土俵で議論するための共通言語としてISOが重要と感じた.
A11:ISOやJISについては,普段自分で調べることがないので参考になった.また,実用的な例が紹介されているのも参考になった.
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2012/7/31 東京地区

各手法共通-分析試料の前処理と取り付けに関するガイドライン(ISO 18116)
 各手法共通-分析前の試料の取り扱い(ISO 18117)
Q:試料を保管する際,薬包紙やアルミホイルで包むなど,いろいろな方法を使っているが,どのように保管するのが一番よいか?
A2:XPS,AESの場合,比較的よい状態で保管できる方法が多く,薬包紙で包むだけでも十分汚染を避けて保管できる.アルミラミネート(封止)なども良い方法である.ただし,試料表面が包む素材に触れると,試料表面へ相手の材料や汚染が転写される場合があるため,試料表面へは何も接触しないように保管する.半導体用の保護テープなども適用しやすい場合がある.
A1:ToF-SIMSでは,例えばアルミホイルで試料を包むとアルミニウムが試料表面へ転写されることなどがあり,特にSIMSは検出感度が高いため転写された汚染を検出してしまうので,保管時は注意が必要である.
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Q:斜め研磨した試料の研磨面を試料ホルダー表面に対して精度よく平行に固定するための方法はあるか?
A1:研磨した角度と同じ角度で傾斜した治具を作製しておき,これを介して試料ホルダーへ固定するなどがよいと考えられる
A2:SIMSの場合は,バックマウントで試料を固定することによって,研磨面と試料ホルダー表面を平行にすることができる.
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Q:アルミ箔などで包んで試料が持ち込まれる場合が多いが,この包んだ試料を入れるケースそのものによる汚染の影響は考える必要はないか?
A:それほど多くはないが,経験では,塩化ビニール系材料を使ったケースで試料を保管すると塩素が汚染として検出される場合がある.こういう汚染の有無を確認するため,ケース等に由来する汚染が表面に存在しないかを分析を実施する前に確認するようにしている.
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Q:金属酸化物などの選択スパッタが起きる系に対してスパッタ深さ分析による深さ方向定量分析を行う場合,スパッタリング収率の比の文献値を使って感度係数を補正するとよい定量値が得られると説明があったが,実際の系で,どの程度正しい値が得られると考えればよいか?
A:選択スパッタによる状態の変化はしばらくスパッタを続けると飽和するため,バルク内の組成が深さ方向で均一であれば,それなりの定量値が得られると考えている.
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Q:選択スパッタはイオン種などで変わるのか?
A:選択スパッタは,イオン種やエネルギー,イオンの入射角度によっても変わる.そのため,定量分析を行う際にスパッタリング収率で感度係数を補正する場合は,実験条件に合ったスパッタリング収率を用いて選択スパッタによる感度係数の補正を行うことが推奨される.
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Q:試料表面とバルクで組成が異なる試料のスパッタ深さ分析を行う場合,選択スパッタの影響はどのように補正すればよいか?
A:バルクと表面で組成が異なると選択スパッタも表面とバルクで異なると予想されるので,その差はプロファイルに現れるため,そのような場合も補正が可能であると考えられる.
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Q:ISO18116ではいろいろな項目が記載されているが,分析を行う際に各事項を記録するように規定されているのか?
A:本規格では,一部の項目を除いて記録することは規定されていないが,経験上,記録した方がよいと考える.また,分析担当者が実施内容を記録に残すことで,分析の信頼性が向上することから,記録は非常に重要である.
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Q: ISO18117のガイドラインは分析依頼者のためのものとのことであるが,どのように使えばよいか?事前の打ち合わせ等で教えたり,確認してもらったりするのか?
A:事前の打ち合わせの際に話をして,試料の取り扱い方などの注意事項を伝えるようにしてこの規格を使うとよい.取り扱いの記録は,トレーサビリティの向上という点から,分析担当者が行う方がよい.
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XPS-分析のガイドライン(ISO 10810)
Q:強度の再現性と恒常性についてCu 2p3/2とCu 3pのピーク強度比で評価しているが,強度ではなく比を用いることにどういう意味があるのか?
A:装置の暖気運転が不十分な場合に起きる装置の状態の変動や,分析中にX線源や検出器の変動などが起きた場合,各ピーク強度は変動するが,ピーク強度比を求めれば一定となるため,比を求めて評価する方がよい.
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Q:繰り返し性と恒常性を調べるときに用いるCu試料に対して1%硝酸での洗浄が必要と明記されているが,硝酸による洗浄は必要か?
A:表面汚染がひどい場合などに使うとよいと述べられている.表面汚染の量がイオンスパッタで除去できる程度であれば,硝酸でエッチングしなくても問題ない.
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Q:制動X線を使うとはどういう意味か?
A:一般に分析には特性X線が用いられるが,それよりも高いエネルギーの制動X線を利用することによって,より内殻のオージェピークを測定できる.高エネルギーの制動X線を使うと低結合エネルギー側(高運動エネルギー領域,通常のX線源を用いた測定ではマイナスの結合エネルギー領域になる)にピークが現れる.装置によって測定できる結合エネルギーの範囲が異なり,この測定を実施できる装置と実施できない装置がある.
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Q:強度軸の繰り返し性と恒常性を評価する場合,測定ごとに試料位置の調整が必要であるが,ステージコントローラがある時はどのようにするのがよいか?
A:試料位置調整の繰り返し性を調べるためであるので,自動で行うのではなく,自分で調整しなければならない.強度が最大になるように試料高さを合わせるなどの方法を用いると調整しやすい.
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Q:本ISO規格に関連する新規ISO並びにJIS規格に関する情報について
A1:8-3ページに出てきた薄膜分析については,近年中に均質な薄膜の分析に関するISO規格が発行される予定である.
A2:また,XPS装置における強度軸の繰り返し性と恒常性に関するISO規格(ISO24237)については現在JIS化が進められており,近年中にJISとして発行される予定である.
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AES & XPS-空間分解能の決定(ISO 18516)
 AES & XPS-空間分解能,分析領域及び分析器から見える試料表面領域の決定(ISO/TR 19319) -分析領域を知るために-
Q:分光器の応答関数とは何か?
A:分光器が見ている試料上の領域について,その領域内の各場所からの信号電子がどの程度分光器に取り込まれて検出されるかを表す関数である.例えば「top hat型の応答関数」とは,分光器が見ている領域から放出された電子が100%分光器へ入って検出され,その領域以外から放出された電子は分光器に入らない場合に相当する.実際には,例えば領域の端ではぼけがあるため応答関数はなまった形状になり,ガウシアン型や,ガウシアンにローレンツ関数が混ざった形状となることが多い.
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Q:gold-island法を用いて空間分解能を測定する場合は,粒子の形状が重要であると考えられるが,この規格においてgold-islandの形状に対して求められる条件などは規定されていないのか?
A:特に規定はされていない.Au微粒子には直線的なエッジ部分が必ずあるので,そこを使えば問題なく測定できるため.試料形状を気にする必要はあまりない.
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Q:Au微粒子を用いてAES装置の空間分解能を測定する場合にAu微粒子試料の清浄化が必要とのことであるが,規定されている程度まで試料全体にわたって清浄化できるか?
A:他のグリッドを用いる場合なども同様で,Au微粒子試料は表面が平坦な試料ではないため全体を規定通りのレベルまで清浄化することは難しい.ただし,多くの他の規格では清浄度が必須条件として規定されているのに対し,本規格では清浄化の程度は推奨であるため,できるだけ清浄化すればよいことになる.
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Q:Au微粒子を使った空間分解能測定の例として示されているプロファイルでは0%と100%の領域にプラトーが見られないが,この規格では0%と100%の決め方は規定されていないのか?
A:特に規定されていない.規格内に示されている例では,100%にはプロファイルの最大値,0%には最小値を採用していると思われる.実際の分析でもそのように設定して,設定内容を報告書等に明記すればよいと考える.
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Q:Au微粒子を用いて空間分解能を測定する場合,予想空間分解能の10倍以上の粒径が必要とのことであるが,最後に示されている例では粒子の大きさが予想空間分解能の10倍よりもずっと小さいと思われるが,規格内で特に説明等は行われていないのか?
A:規格内に掲載されているプロファイルの例では,Au微粒子の粒径が予想空間分解能の10倍よりも小さくプロファイルにプラトーが見られないため,あまりよい例とは言い難い.そのような場合は,粒径に依存してプロファイルの最大値が変化し,分解能も変わってしまうためである.ただし,あまり粒径が大きすぎても測定範囲が広すぎ,分解能を精度よく求めることができなくなるため,Au微粒子の粒径としては大き過ぎず,また小さ過ぎない適度な大きさが必要である.
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Q:ここではグラファイト上Au微粒子などが空間分解能を測定するための試料として用いられている.しかしながらSEMなどの空間分解能を測定する場合,例えば近接するAu微粒子の隙間の長さを測定し,その最小値を求める方法(ダークスペース分解能)を用いる方が一般的で,AES装置のSEM空間分解能の仕様にも採用されている.この点についてはどのように考えればよいか?
A:ダークスペース分解能はSEMで一般に用いられることが多い.本規格はAESとXPSを対象とした規格であり,SEMについては別の規格があるので,それぞれに適した方法で空間分解能を求めればよいと考える.
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Q:分析器の応答関数が単純なガウシアン型の場合を考えると,空間分解能の値は分析領域の半分程度の値になり,実際に分析する領域は空間分解能で与えられる領域より広い.これら分析領域と空間分解能の関係はどのように考えればよいか?
A:分析器の応答関数が分析領域の端で裾を引いて広がっている場合などは判断が難しいが,一般に分析器がガウシアン型の応答関数をもっていれば,空間分解能の2倍程度の領域からの情報が入っていると考えればよい.
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スパッタ深さ方向分析-層構造系標準物質を用いた最適化法(JIS K 0146,ISO 14606)
Q:深さ分解能の一般的な定義に関して,強度が0%から100%へ変わるところと100%から0%へ変わるところで分解能が異なると考えられるが,両者で空間分解能が異なるとして分析結果を取り扱えばよいか?例えばSi基板上のSiO2膜の場合,膜の酸素ピークを用いるのと基板のSiピークを用いる場合で分解能が変わると思われる.
A:SiO2/Si試料のスパッタ深さ分析においてSiと酸素のピークを使う場合,電子のエネルギーがSiと酸素ピークで異なるため深さ分解能も異なる.そのため異なるピークで深さ分解能を比較するのはあまり意味がないと考える.
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Q:埋め込み膜の場合などは,埋め込み膜によるプロファイルの立ち上がり側と立ち下がり側で深さ分解能が変わる場合が多いが,そういう場合はどのように取り扱えばよいか?
A1:まずは分析者が見たい方の界面に注目するべきである.両方を見たい場合,一般に深い側の界面の方が浅い側の界面よりも深さ分解能が悪くなる傾向があるため,どちらの界面での値を用いるかではなく,そういうことも考慮したプロファイルの解析が必要である.
A2:この規格自体は,測定条件を変えて深さ分解能を測定し,深さ分解能が高いか低いかを判断しながら測定条件を最適化するための規格である.実際の分析試料において界面でのプロファイルのなまりが見られる場合に,このなまりが試料中の元素の拡散によるかどうかを考えるのは,この規格で規定されている内容とは別の話である.
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Q:スパッタ領域に比べて分析領域をできるだけ狭く設定する方が,深さ分解能が高くなるとのことであるが,スパッタ領域と分析領域の面積の最適な割合は決まっているか?
A:この規格では規定されておらず,最適な割合に関する報告もない.分析に使える時間や試料の損傷などの条件を考慮して許される分析条件の範囲を検討し,その範囲内で最適な条件を選択するのがベストであると考える.
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Q:スパッタクレータの中心付近の平坦な領域を分析する方が深さ分解能が高いとの説明があったが,平坦な領域と分析領域の面積の兼ね合いがあると考えるが,どのように考えればよいか?
A:少なくとも,スパッタクレータ中心部の平坦な領域を広げる必要がある.そのためにはイオン銃のアライメントを適切に行っておくことが必須条件であり,イオン銃の調整に注意が必要である.
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Q:イオンの入射角を大きくすれば(すれすれ入射に近づければ)深さ分解能は必ず向上するのか?
A:一般にイオンの入射角の増加に伴って深さ分解能が向上するが,おおよそ70度程度で飽和することが報告されている.
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Q:深さ分解能を求める時に強度の16%と84%という値が出てくるが,この値にはどのような意味があるのか?
A:界面でのプロファイルのなまりがガウス関数で表される場合の,2(は分散)に相当する.
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Q:このJIS(ISO)は規格ではなく技術報告であるため,厳密な手順を規定しているのではない.日常的な分析を行う場合,条件を変えながら深さ分解能を測定して深さ分解能が最適となる条件を見つけるのは現実的ではないため,日常的に用いる範囲で探す,ということであるが,日常の分析では分解能の評価や装置のメンテナンスに関してどのようにルーチン化するのが実用的か?
A:例えば,週の初めに必ずSiO2/Si試料に対して深さ分析を行い,深さ分解能とエッチングレートを確認することで,装置の状態が維持できているかどうか判断できる.
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Q:D-SIMSにこの規格を適用する場合について
A1:D-SIMSにおける深さ分析もこの規格に含まれているが,D-SIMSでは一般に深さ分解能を求めるのに16%-84%の定義は用いず,強度を対数表示して,その直線性と傾きを評価することが多い.
A2:D-SIMSの深さ方向分析の測定条件として,一次イオンの加速電圧,電流値,入射角などのスパッタリング条件や,スパッタ領域に対する分析領域の電気ゲートによる設定条件などがある.D-SIMSの深さ方向分析は,AESの深さ方向分析より測定時間が短い場合が多いため,多数の測定条件を系統的に変えることで,適した深さ分解能とダイナミックレンジが得られる測定条件を探して分析することができる.
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Q:SIMSにおける深さ分解能について
A:SIMSの場合はダイナミックレンジが広く16%-84%の定義で求まる深さ分解能では意味がない.SIMSで得られる深さプロファイルの強度(縦軸)を対数プロットすると,ピークに至る前のleading edgeとピーク後のtrailing edgeそれぞれで直線(線形)領域が見られる.このプロファイルの直線領域の傾き(decay lengthと言う)を用いて深さ分解能を評価するISO規格(ISO20341)が成立している.
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中エネルギー分解能AES-元素分析のためのエネルギー軸目盛の校正(ISO 17973)
 高エネルギー分解能AES-元素と化学状態分析のためのエネルギー軸目盛の校正(ISO 17974)
  XPS-エネルギー軸目盛の校正(JIS K 0145,ISO15472)
Q:エネルギー軸を校正する場合,必要な元素の必要なピークのみ測定すればよいのか?あるいは,例えば0~2000 eVと広く測定してもよいのか?
A:測定時間がかかるので,必要なところだけ測定すればよい.規格でもそのように規定されている.
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Q:試料としてAu, Ag, Cuを用いることとあるが,試料は変えてもよいか?
A1:試料については,規格内でAu,Ag,Cuと規定されており,各ピークについて基準となるエネルギー値が規定されているため,エネルギー軸の校正にはこれらの試料を用いる方がよい(他の試料ではエネルギー値が規定されていない).日常的な分析業務を考えると,規格内で述べられているように,日常的に測定する試料(帯電や化学状態の変化がなければ,Au,Ag,Cu以外でよい)からのピークのエネルギー値をチェックしておくと,エネルギー軸校正が必要かどうかの判断基準になるので便利である.
A2:用いる試料については,同一試料を保管しておいて繰り返し使用するように規定されている.長期間使用すると表面荒れ等が増える場合などもあり,別途新らしい試料を準備して用いても問題ない.
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AES & XPS-均質物質定量分析のための実験的に求められた相対感度係数の使用指針(ISO18118,JIS K 0167)
Q:平均マトリクス相対感度係数(AMRSF)の説明のところで,計算に必要なデータが入っているソフトウェアCOMPROが紹介されているが,その中でAMRSFを計算できるのか?
A:AMRSFそのものの計算機能はなく,単体に対する原子密度やTPPの式を使ったIMFPの計算,背面散乱因子の計算などが行える.これらの値も多くは単体に対する値で,化合物のデータは基本的に入っていなかったと思う.
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Q:定量値の不確かさにかかわる因子として試料形状が挙げられているが,粒子などの球状の試料に適用できる相対感度係数の式があったら紹介してほしい.
A:粒子に適用できる定量の式や相対感度係数は報告されていない.表面荒れが存在する場合の強度については,シミュレータを使った計算結果などが報告されている.XPSを使ったAuナノ粒子などの分析が行われ始めているが,特に粒子に対する式ではなく,一般の定量が行われている.スパッタエッチングに関しては,最近,粒状の試料をスパッタ深さ分析した時の深さプロファイルについて理論的に検討された研究が行われ始めている.
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Q:Au-Cu合金の例において,実際の合金の組成が示されているが,どのような方法で得た値か?
A:EPMAで得られた値である.表面を研磨した試料が使われていると思う.EPMAは極表面だけでなく内部を見ることができ,ZAF法に代表される定量補正法が確立した分析手法であるため,合金などのバルクに対して定量精度が高い.
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Q:今回の相対感度係数を用いたAESによるAu-Cu合金の定量では,AESによる定量値がEPMAで得られた値と異なっている理由について,試料内部まで見えるEPMAで得られたバルクの組成値と,試料表面のみを定量するAESで得られた定量値が違っていても特に問題ないと思うが,そういう理解でよいか?
A:Au-Cu合金のAESによる定量を行う際はイオンスパッタによる清浄化が行われているが,Au-Cu合金のAESによる定量値はEPMAによる定量値と比較的よく一致するためイオン誘起の表面偏析が起きない系と言われている.しかしながら,AESで高エネルギーと低エネルギーのピークを使って定量すると定量値に系統的なズレがあり,わずかであるが表面偏析が起きる系であるという報告がある.この表面偏析で定量値の差を系統的に説明できるようである.
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Q:AESで分析する場合に表面偏析が起きるのであれば,TEM試料のように薄くして比較してはどうか?
A:試料厚さにもよるが,AESで一次電子を透過させて分析することを考えると,試料が非常に薄くバルクではなくなる可能性がある.また,AESでは試料形状に拠らず極表面を見ることには変わりがなく,表面偏析という点では改善できるとは考えられない.
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Q:定量を行う際,感度係数はメーカーが提供する解析ソフトに入っているが,定量に使うピーク(遷移)を変えることがある.AESでpeak-to-peakで定量を行う場合はあまり問題ないが,XPSの場合はバックグラウンドをどのように引けばよいのか,など疑問に感じる時がある.どのように解析すればよいか?
A1:感度係数については,メーカーが提供している値が常に正しいかどうかは疑問である.装置の経年変化もあるので注意が必要である.AESについても装置の状態や種々の分析条件等で変化するので注意が必要である.
A2:XPSの感度係数についてはハンドブック等にも掲載されているが,各元素の基本ピークについても,メーカーがどのようにバックグラウンドを引いて感度係数を求めたかなどの情報は提供されていない.そのため,結局はどのピークを使っても同じで,正しい定量値を得ようとするのであれば自分で感度係数を測ることになる.
A3:よい定量値を得るためには,自分で感度係数を測定するのが一番よい方法であるが,この時の注意点として,測定したい試料が化合物等の場合が殆どであるので,標準試料としてできる限り単体ではなく,測定したい試料に近い組成の標準試料を用いるとよい.
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Q:例えばSiO2/Si系のAES分析では,SiO2とSiの感度係数が大きく違う.どのようにすればよいのか?
A:SiとSiO2のSi-LVVはピーク強度の変化が特に顕著な系の一つである.これに対してSiO2/SiをXPSで分析すると,密度が異なるにも関わらずSi 2p強度はSiO2とSiで殆ど変らない.遷移金属酸化物のXPS分析などでは金属と酸化物で強度の変化が大きい.同じ元素からのピークでも系(組成)で感度係数が大きく変わるため,正しい定量値を得るためには似た系を標準試料として用いて感度係数を測定し,定量を行うことを勧める.
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Q:XPSの場合に,主に定量に使うピークが他の元素の重なりがある場合,どのように定量すればよいか?また,低結合エネルギー側にあるピークのバックグラウンドのために強度が階段状に高くなっている場合もあるが,どのようにすればよいか?
A1:例えばいくつかの標準試料に対してスペクトルを測定し,それらのスペクトルでピークやスペクトルを綺麗に分離できるのであれば,その方がよい.また,ピーク合成を使うのも一つの方法である.ただしピークが完全に重なってしまい,状態も変わっていてうまく分離も出来ない場合などは,メインピーク以外の別のピークを使う方がよい.メインピーク以外は強度が弱いことも多いので,別のピークに対してそれなりの強度が得られている必要があり,その場合はそれなりの定量値が得られる.
A2:XPSでは高結合エネルギー側でバックグラウンドが高くなるが,これは低結合エネルギー側にあるピークに起因するバックグラウンドによるもので,比較的平坦な(強度が変化しない)バックグラウンドの上に乗っている場合も多い.この場合は,そのバックグラウンドは一定強度のバックグラウンドとして除去すればよい.
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全体討議
Q:スパッタ収率のデータベースは存在するか?
A1:ISOとしてのデータベースはない.いくつか論文等はあるが限られた系に対するもので,多種多様な試料に対するまとまったデータベースは存在しない.
A2:表面分析研究会のSERDプロジェクトのデータベースがあり,SiO2に対する相対スパッタレートが掲載されており,比較的充実している.
A3:単体元素のスパッタ収率については,摂南大の井上研究室のWebで計算できる.これは経験式を用いた計算値である.
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Q:表面分析装置の今後の方向性について
A:感度,分解能の向上を目指した開発は続けられている.しかしながら,急激にかつ大幅に感度や分解能が向上するような画期的な開発は難しい.むしろ最近はコンピュータの高性能化が進んでいるため,測定の更なる自動化や高精度な定量分析の自動化など,ソフトウェア面での著しい進捗が期待される.
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Q:ソフトウェアの開発という意味で,測定条件などの指針を自動で与えてくれるエキスパートシステムの今後はどうか?
A:装置の設定など,測定条件として明らかな間違いを指摘するようなシステムは開発が進んでいる.また,ある特化した系だけに限定して用いるのであれば,エキスパートシステムのようなシステムの開発が行われており,既に用いられている.広い範囲で適用でき,詳細な条件設定や解析について自動で指針を与えてくれるシステムの開発はまだまだ難しく,課題が多いと考える.
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Q:XPSのピーク位置の補正の正しさの議論は今後どうなるか?
A:6-11ページに掲載されているように,現在使われているC 1sの補正値の調査などは行われている.最も広く用いられている値を調べることは可能であるが,最も正しい値を決めるのは非常に難しい.
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